内容はすべて掲載日・更新日現在のものです。/2016年8月31日更新
池田 和幸
IO(イノベーション・オフィサー)
執行役員 ECR本部配送マネジメント 統括部長 「明日来る」という社名の由来どおり、「時間をお約束したサービスをご提供すること」は、お客様の信頼の原点ですが、eコマースでの購入体験が増えつつあることを背景に多くのお客様より「いつでも、どこでも、誰にでも、欲しいものを欲しいときに届けてほしい」とアスクルのサービス進化に対するご期待が大きくなってきています。
「お客様のために進化する」というのは、創業当初から変わらないアスクルの企業理念ですので、お客様のご期待にお応えするべく、様々なチャレンジが社内で進められています。なかでも、これまでITやAIなどの技術活用が十分でなかった物流領域は、先進技術を活用することでイノベーションの可能性が期待できる分野です。
ロボティクスの最新テクノロジーをアスクルの物流に導入・活用することで物流センターを高度自動化することは、イノベーション・オフィサーとしての大きなミッションの一つとなっています。
核家族化による世帯数の増加などの社会的な要因やインターネットやスマートフォンの普及などIT技術の進化・普及を背景にeコマースの市場は、数年後には現状の倍程度に拡大することが予測されています。一方で日本では、少子高齢化が進展しており、今後、30年で2500万人以上の労働人口が減少することが予測されており(*)、労働力の確保が今後の大きな課題になることが見込まれています。加えてeコマースの成長・拡大に伴い、取り扱う商品が大幅に増加し、物流センターで働くスタッフは、商品を探してより広い範囲を歩き回って様々な形や大きさの異なる商品をピッキングしなければならず、作業量や負担は、大きくなるばかりで、このeコマースの構造的な問題を解決するためのイノベーションが必要でした。
*「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)など
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp
こうした背景から、製造業で多く導入されている産業用ロボットを活用し、物流センターの高度自動化をすることを検討しました。
しかし、現状の産業用ロボットは、ティーチングによって「記録」された動作を「再生」することで作業を行う方式で動作するため、事前に決められた動作を繰り返し行う製造業のような作業現場での活用は比較的容易ですが、お客様ごとに様々な商品が注文され、多種多様なバラバラな状態の商品を、その場でどのようにピッキングするか全ての商品の組み合わせパターンを事前に決定することができないeコマースの物流センターのような環境での活用は、不可能でした。
不可能を可能にするために、従来の常識から発想をかえて、「自分で考えて動作するロボット」を実現しようと考えました。従来の物流センターのIT技術や先進設備などのノウハウを活用すれば、短時間でロボットが考え・動作するための多くの情報を取得できます。
今回のチャレンジは、アスクルだけではなく、最新技術をもつ多くのパートナー様と協業して取り組んでいます。ロボットは、市販の大手ロボットメーカーより調達し、商品を掴むハンドは、大学との共同研究開発も進めています。
高速・高精度の画像認識システムにより、バラバラの状態の様々な商品を、的確に扱うための認識ができるようになった。
ロボットの「脳」と「目」にあたる、MUJIN社の次世代の知能ロボットコントローラ
なかでも、以下の中核となる2つの技術は、ロボットベンチャー企業である株式会社MUJINとの業務提携によって実現しています。
1)高速・高精度の画像認識システム
2)最適な動作計画の生成
このピッキングロボットのしくみと、従来からの高速の自動倉庫システムとの組み合わせにより、人に依存した場所の制約がなくなり在庫の格納効率が向上し、より多くの商品を取り扱うことが出来るようになります。
また、スタッフの大幅な増員をすることなく24時間作業が可能となることで物流センターの生産力は、劇的に向上します。
スタッフとロボットとが共存する、人に優しい物流センター。将来の労働力不足と生産性向上という課題を同時に解決する一つの可能性として取り組んでいます。
「ASKUL Logistics Technology」
最新のテクノロジーを活用し物流のイノベーションを推進 イノベーション・オフィサーへの期待としては、ロボティクスや人工知能(AI)の活用なども含め、仕組みとして法人向け「ASKUL」や一般消費者向け「LOHACO」のサービスをどう進化させていくか、「サービスとテクノロジーを融合させる設計図」をデザインすることも含まれます。ときに、最初に思い描いていたのとは全く違う結果が出てくるパズルを解くようなこともあるかもしれません。
今後の多種多様な商材や事業の拡大に応えつつ、今後起こりうる様々な課題を予見して、最先端のテクノロジーをどのように活用し実用化・ビジネスモデルと結びつけるか。そして、サービス、プラットフォームの進化を通じて、お客様の満足度の向上と、全体最適・社会最適をどう図っていくか。
将来のアスクルにとっての課題は、裏返せば、アスクルの未来への成長と、イノベーションの機会とも言えます。これが多いほど、やりがいと可能性も無限大だと感じています。
*役職・肩書き等は掲載時のものです。(2016年8月)