CSR Top Message トップメッセージ

2023トップメッセージ

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2023年5月期の振り返りと2024年のテーマ

売上・利益が過去最高更新、2大目標も達成

2023年5月期は売上高、営業利益ともに過去最高を更新することができました。期初に掲げていた「BtoBの成長カーブを変える」「LOHACOの通期黒字化」という2大目標も達成しました。BtoB事業の売上高は前期比7.4%増となり、2024年5月期には2桁成長を達成できる見通しが立っています。一般消費者向けのオンライン通信販売事業である「LOHACO」も、創業時からの赤字を黒字に転換することができました。これらの目標をしっかりと実現できたことについては、一定の評価をしています。

2024年5月期は、売上成長の加速とともに利益成長をスタートさせ、中期経営計画最終年度の大きな利益成長につなげる年と位置づけています。そのポイントとなるのが、お客様の利便性や満足度を、これまで以上に徹底して高めることです。

お客様に一度の買い物で必要なものをすべて揃えていただけるようになれば、利便性は大きく向上するはずです。ただし、ご提供する商品が増えたとしても、それを買っていただけなければ意味がありません。窓口や配送ドライバーとストレスなくコミュニケーションを取っていただけるようにする、適切な梱包でゴミを少なくするといったことを通してサービスの品質を高め、ご購入いただきやすくすることも必要です。

ご提供する商品が増え、それをお客様にご購入いただければ、当然売上と利益は上がります。当社の成長を加速するため、スピード感を持って取り組んでいきます。

将来のあるべき姿から逆算する

私はCEOとして長期・中期・短期の3つの軸で先を見据えながら、柔軟に意思決定することを心掛けています。常に先の変化をキャッチアップし、時には過去の意思決定を変えるなど、タイムリーに判断していくことが大事だと考えます。

現在、2025年5月期までの中期経営計画達成に全社一丸となって取り組んでいますが、不足しているのはバックキャスト視点です。2030年頃にはどうあるべきか、さらに20年先の2050年にはどうあるべきか、という視点から逆算して今後取り組むことを設定していくべきだと感じています。

また、目標を設定するだけでなく、なぜその目標に挑むのかを社員としっかり共有することも重要です。しっかり腹落ちしているのと、やらされていると思って動くのでは、結果がまったく変わってきます。CEOとして、社員に伝わるメッセージを出すことを常に意識しています。

メッセージを浸透させるための取り組みの1つとして、「CEOタウンホールミーティング」と呼ぶ5~6人の社員と私が直接対話する会を、週2回のペースで計140回以上(2022年1月からの累計)開催しています。タウンホールミーティングで社員と話すと、普段私が発信していることがなかなか社員には伝わっていないと感じることがあり、より丁寧に説明していくことの必要性を再認識する機会になっています。

オフィス通販からのトランスフォーメーションを成し遂げるために

さらなる成長のため、過去の成功をアンラーニングする

2025年5月期までの中期経営計画は、「オフィス通販からのトランスフォーメーション」をテーマに掲げていますが、まだ道半ばと言える状況です。

そもそもなぜトランスフォーメーションに取り組むのか。それは、お客様のために進化して存在意義を高めるという「ASKUL WAY」やパーパス実現のためですが、もっと率直に言うと「今後アスクルが生き残っていけるか、強い危機感を覚えているため」です。

我々はこれまで、オフィス通販という分野でビジネスを徹底的に磨き、一定の成功を収めました。一方で、近年はインターネット環境が充実し、競合となるEC事業者が数多く生まれました。我々と同様の商品を、同じような価格・納期で提供できる事業者も多数存在します。つまり、我々のビジネスモデルが陳腐化しつつあるということです。

今後も当社が生き残るためには、これまでのビジネスモデルを進化させ、社会に対する存在意義をさらに高めることが必要です。特に重要なのが、お客様の価値観の変化に合わせて、我々の価値観をアップデートしていくことです。

今のお客様は「様々な商品の購入を、一度に済ませたい」と考えています。一度に済むのならばすべての商品が必ずしも早く届く必要はない、と思われている方も多いはずです。先日、私がお客様の運営する施設を訪ねた際、トイレなどの備品に競合企業の提供する商品が使われているのを目にしました。価格や品質では当社が優位な商品だったため、お客様になぜ他社を選ばれたのかをお聞きしたところ、「私たちは来場されるお客様が心地良く過ごすための業務に時間を割きたい。そのために1つのECサイトですべての買い物ができるなら、一部のアイテムの価格が他より多少高かったとしても購入する。1円の差は気にしない」という言葉が返ってきました。

我々はその1円のため、仕入れに多くの時間をかけています。悪いことではなく、大切な努力です。ただ、長きにわたり「企業購買は常に価格が一定でなくてはならない」と考えてきましたが、時代にそぐわなくなってきていると感じます。現在は短期間で価格を変えるEC事業者が増えており、多くのお客様はそれを受け入れています。

このように、お客様の価値観は以前とは大きく変わっています。我々も、これまでの成長を支えてきた価値観に固執することなく、有効でなくなった知識やスキルをアンラーニングしていく必要があります。これは大変難しいことですが、社員にはその実現に向けた行動力やリーダーシップの発揮を期待しています。

BtoBとBtoCの組織を融合

我々の価値観を進化させていく取り組みの1つに、2023年3月に行った組織の「BC融合(BtoBとBtoCの組織統合)」があります。これまでそれぞれのサービスごとに行っていた事業運営体制をEC事業として一本化しました。

BtoBとBtoCの事業はともにインターネットで商品を販売するというビジネスモデルですが、以前はお客様から求められることが大きく異なっていました。そのため、物流や商品の仕入れなど、似たような業務が数多くあるにもかかわらず、完全に別の組織にしていたのです。

例えば、BtoCはサービス内容も価格も俊敏に変える必要があり、指定された時間に配達することがマストでした。一方でBtoBは、価格が一定であり、翌日届けることはお約束していても、時間帯の指定はない、といったように。

しかし、近年はBtoBでも頻繁な価格変更が受け入れられるようになり、商品に関しても、以前はコピー用紙などオフィス用品が中心でしたが、近年はペーパーレス化が進んだ影響でそれらの販売が減少し、代わって日用雑貨の販売が増加しました。扱っている日用雑貨の商品ラインナップは、BtoCとほぼ同じです。また、BtoCでは置き配が普及したことにより、指定された時間帯に配送する機会が大きく減りました。置き配であれば、BtoBの配送の仕組みでも対応が可能です。

こうした変化により、近年はBtoBとBtoCで組織を分ける必要性が低くなったことに加え、経営資源を分けて持つことは非効率なため、組織統合を決断しました。組織発足当初は文化の違いなどに戸惑う社員もいましたが、本部長に統合の意義などを繰り返し説明してもらった効果もあり、現在は社員が少しずつ新組織に馴染んできているようです。お互いの持っている良いノウハウを統合し、進化を加速させます。

サクセッションプランづくりに注力

組織には新陳代謝が欠かせません。1人がトップを長く務め過ぎても、逆に頻繁に変わり過ぎても良くありません。適切な新陳代謝ができるよう、後進育成のためのサクセッションプランをしっかりとつくることが重要です。

私が社長に就任して2年目の2020年から、サクセッションプランづくりに取り組んできました。独立社外取締役と議論を重ね、後継候補の客観的な選抜方法や、育成方法などを決めてきました。現在は設定した8つの基準に基づき、後継候補を約20人選定しています。
先に挙げた、過去の成功をアンラーニングする力や、過去の常識にとらわれない行動力なども選定の基準に入っています。

2023年3月には、サクセッションプランに基づき組織体制を刷新しました。例えばマーチャンダイジング本部の本部長には新卒入社1期生の女性を抜擢しました。彼女はまだ30代前半と若いため、経営層の若返りを狙った選任と思われるかもしれませんが、そうではありません。アンラーニングや行動力など人材選定の基準に基づいて評価した結果であり、資質を備えている社員であれば年齢は関係ないと考えています。

現在のサクセッションプランはスタートしたばかりのため、後継候補とともに適宜見直していく考えです。

女性管理職比率は、女性社員比率と同等の水準に

女性管理職比率については、2025年までに30%以上を目標とする「2530」を掲げています。ただし、これは最初に目指すべき目標であり、あくまで通過点だと考えています。本来はこういった数字を意識しなくても、全社のジェンダー・バランスと管理職の女性比率が自然と同じにならなくてはいけないはずです。

そもそも日本のジェンダー・ギャップへの取り組みは、国際的に見て非常に遅れています。男女格差を数値化した2023年のジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中、過去最低の125位に後退しました。こうした状況に危機感を覚えていない日本の経営者は多いですが、私は上場企業として意識を是正しなくてはならないと思っています。

同時に、管理職の女性比率を高める際、数合わせのために本来ふさわしくない人材を任命するようなことがあってはなりません。女性管理職比率を適切に向上させるための1つの方法として、初めてマネジメント業務を行うことになるマネージャーの段階で、しっかりとジェンダー・バランスを意識した構成にしておくことが重要だと考えています。

また、社内への浸透を加速させる上で、経験的に最も有効だと感じたのが、部門別に男女比率と管理職の女性比率を数字で可視化することでした。それまではあまり自分ごととして考えられない人が多い印象でしたが、数字を出したことで各部門の意識がはっきりと変わったのです。これ以降、組織改編の際に各部門がこの数字を強く意識していることを実感しています。

進化の方向性

オープンイノベーションを実現するハブになりたい

当社は2022年から、「サプライヤーとコンシューマーのハブになる」というメッセージを打ち出しています。当社が様々な人や組織をつなぎ、オープンイノベーションの装置として機能していきたい、という想いを込めています。

多くのメーカーは、他社がどのようなSDGsの取り組みをしているかについて、情報を求めており、事業機会があれば参加したいと考えています。当社がハブとなり、知の共有のための場を設けてほしいと多くの声をいただいています。

これは、我々がSDGsに高い意識を持って取り組んでいることを多くのメーカーにご評価いただいている結果だと感じています。また、eコマースは店舗での購入とは異なり、すべてがデータ化できます。SDGsとマーケティングの双方の視点から購買データを活かせば、今までの常識では考えられなかったことが生まれるかもしれない、このイノベーションの場の創出をアスクルにご期待いただいていると捉えています。メーカーからの声にお応えすべく、フォーラムやイベント、共創の機会など当社がハブとなれる様々な取り組みを進めていきます。

図

エシカルeコマースのデファクトスタンダードを目指す

アスクルのトップとして、まず問われるのはアスクルのビジョンや進化の方向性を示すことです。正直私はビジョナリーなタイプではないですが、決して揺らぐことのない「経営の大義」を定めることは大事だと考えます。

エシカルeコマースは上記の解として打ち出した言葉で、経済価値と社会価値が両立したサステナブルなサービスの提供を意味しています。

エシカルは倫理的という意味も含んでおり、環境面の取り組みだけにとどまりません。当社はコロナ禍の2020年において、消毒液などの衛生用品の買い占めを防ぐため、購買データなどから本当に必要とする人を特定して通常どおりの価格で供給を行いました。価格を上げて売上を増やすことはできますが、倫理的であること優先し、社会価値の高い行動を選択しました。この例のように、常に倫理的であることを心掛け、環境以外の社会課題の解決も目指していくのがエシカルeコマースです。

他にも、エシカルeコマースを実践するために様々な取り組みをしています。商品がどの程度環境に配慮しているかを可視化した「商品環境スコア」やEV車両の導入、リユース容器を使用した商品販売のための「Loop Professional for ASKUL」などがあります。

この中には最初から十分な利益が見込めるものもありますが、そうでないものも多く含まれます。仮に、なかなか収益化が難しい取り組みであっても、「意思を持ってまずやってみる」ということを社員と共有し、どのようにしたら社会価値と経済価値を両立できるかを突き詰めていきたいと考えています。

しかし、エシカルeコマース実現のために何をするのかは、社員一人ひとりが個別に取り組んでいる状態です。この考え方を解釈できる人はどんどん推進していきますが、少数派であることが課題です。エシカルeコマースの解像度を上げ、中長期での目標設定や、優先順位づけをするなど、分かりやすいフレームづくりに、これからも取り組んでいきます。

将来的にエシカルeコマースを、デファクトスタンダードにすることを目指しています。例えば、商品環境スコアであれば、どのECサイトにも当たり前に掲載され、多くの人が「これが載っていなかった時代は何だったのだろう」と感じるような状況にしたいと思っています。我々が先鞭をつけて取り組んだことが、やがて当たり前になり、多くの人に手本にされ、それによって世の中が良くなるという未来を夢見ています。

こうした取り組みを社内の仕組みからも後押しできるよう、2024年5月期から部長以上の役職者の報酬を評価する項目にESGへの取り組みを加えました。今後は、他のマネジメントにも拡大していく考えです。

中小企業のための共創的なエコシステムの構築

今後力を入れたいことの1つが、全国の中小企業・事業所のさらなる支援です。購買を入口に、それ以外のバックオフィス業務についてもデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援したいと考えています。2022年10月に開始した新サービス「ビズらく」はまさにそのためのサービスであり、「デジタル化を検討しているが何から始めたら良いのか分からない」「社内にIT担当者がいない」といった中小企業・事業所を対象にしています。ただし、中小企業・事業所を今まで以上にしっかりサポートするためには、我々の力だけでは不十分です。様々な企業にプラットフォームへ参加していただき、共創的なエコシステムをつくっていく必要があると考えています。

これは私個人の考えに過ぎないのですが、中小企業のバックオフィスのDXを支援するエコシステムをつくることができれば、それを海外でも展開できるのではないかと思っています。人口減少や少子高齢化は世界でも日本が最初に直面している課題です。中小企業の裏方を支える典型的な企業は海外でも事例がありません。当社は全国500万超の事業所、あらゆる業種のお客様とのタッチポイントを持っています。このポテンシャルの高い経営資源を活かし、中小企業・事業所を支えるシステムを構築していきたいと思っています。

中小企業・事業所をサポートする上で、やはり経済価値と社会価値の両立が欠かせません。ビジネス規模や売上も大事ですが、まずは真摯に誠実に取り組むことが最も重要だと考えています。我々と同じ志を持ってご協力いただける企業の皆様、是非エコシステムづくりにご参画いただけたら幸いです。

2023年11月

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アスクル株式会社 メディカル部, アスクル株式会社 CSR推進部, 株式会社ディ・エフ・エフ